新刊楽譜:武満徹による2つの編曲作品 ピアノのための《ゴールデン・スランバー》、弦楽四重奏のための《枯葉》
Photo: Schott Music Co. Ltd., Tokyo
作曲家・武満徹(1930-1996)の没後20年となる今年、長らく待ち望まれていた武満による2つの編曲作品の楽譜が、ショット・ミュージックから遂に出版される。ジョン・レノン & ポール・マッカートニー作曲《ゴールデン・スランバー》と、ジョゼフ・コスマ作曲《枯葉》、世界中で広く知られているこれらの名曲を、武満が同時期(1992-93)にそれぞれピアノ独奏と弦楽四重奏のために編曲したものだ。
レノン & マッカートニーによる《ゴールデン・スランバー Golden Slumbers》は、1969年に発表されたビートルズのアルバム『アビイ・ロード』に収録された楽曲で、16-17世紀イングランドの作家トマス・デッカーの詩による古い子守唄をもとに、マッカートニーが自由に作り変えたものとされる。
武満によるこの編曲版は、ピアニストの高橋アキによる録音企画『ハイパー・ビートルズ』のために92年に書かれた。高橋は同年8月10日にこれを録音し、続く10月23日に横浜市教育文化ホールにて初演を行っている。
優しく歌われる素朴なメロディーと、丁寧にハーモナイズされたアルペッジョが絡み合い、陽だまりにまどろむような響きの時間がゆっくりと流れる。武満は《ギターのための12の歌》(1977)の中でも《ミッシェル》や《ヘイ・ジュード》といったビートルズ作品を編曲しているが、本作ではより自由な発想による彩りを聴くことができる。
ジョン・レノン&ポール・マッカートニー/武満徹 John Lennon & Paul McCartney / Toru Takemitsu: 菊倍判/8ページ 2016年10月25日発売 |
ジョゼフ・コスマ作曲《枯葉 Les Feuilles mortes》(1945)は、戦後のシャンソンのスタンダードとして、そしてジャズのスタンダードとして、これまでに幾多のカヴァーが作られている、まさに誰もが一度は聴いたことのある名曲だ。
武満は自身が音楽監督を務めた1993年の八ヶ岳高原音楽祭に際し、《枯葉》を弦楽四重奏のために編曲した。初演は同音楽祭の八ヶ岳高原音楽祭祝祭カルテットによるコンサート(93年9月23日)のアンコール・ピースとして、豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、深山尚久(ヴァイオリン)、小林秀子(ヴィオラ)、田中雅弘(チェロ)によって行われた。尚、同音楽祭ではチャイコフスキー作曲/武満編曲によるクラリネットと弦楽四重奏のための《秋の歌》の初演も行われている。
波のように寄せては返す強弱とテンポ・ルバートのなかで、弦楽器ならではの響きの濃淡が刻々と移り変わっていく。メロディーが秘めた哀愁と情熱の機微を歌い尽くす、武満の感性が存分に投影されたアレンジとなっている。
よく知られたコーラスのみならず、前奏、ヴァース、コーダに至るまでドラマティックにアレンジされた武満版《枯葉》は、数ある編曲のなかでも、コンサート・ピース足り得る珠玉の一品といえるだろう。
ジョゼフ・コスマ/武満徹 Joseph Kosma / Toru Takemitsu: スコア(12ページ)&パート(各4ページ)/菊倍判 2016年11月25日発売 |