権代敦彦《たとえ死の陰の谷を歩むとも》/岸野末利加《ウード》世界初演
photo © Michiharu Okubo
10月9日に東京オペラシティで行われるアンサンブル・ノマドの第70回定期演奏会で、権代敦彦《たとえ死の陰の谷を歩むとも》と岸野末利加《ウード(沈香)》がともに世界初演を迎える。いずれも荒木田隆子基金による委嘱作品。
権代の新作、アンサンブルのための《たとえ死の陰の谷を歩むとも》は、「死」をキーワードに、「si」(=死)の音を中心音として作曲されている。タイトルから示唆される詩篇23の一節は、世界的にコロナ禍に苦しむ我々の状況を言い表しているようである。作品中には同名のグレゴリオ聖歌の断片が聞かれるが、作曲家自身はそれを「道を踏み外さぬよう仕掛けた導灯のようなもの」としており、出口の見えない暗い道のりを照らす灯火のようにも感じられる。作曲家が「図らずも現在(いま)へのひとつの希い・祈りのよう」と述べるこの作品とともに、これからの未来を考えるひと時となるだろう。
岸野の新作《ウード(沈香)》は、マリンバとピアノ、アンサンブルのための二重協奏曲。日本の文化のひとつである香は、特に仏教と関わりが深く、日本書紀にその記録があるほど古くから親しまれてきた。香木として知られる沈香や伽羅、白檀は、燻らすと辺り一面によい薫りが漂う。その薫りは時間が経つにつれて段々と変化していき、やがて消えてしまうが、時に人の記憶や感情を呼び起こすものでもある。岸野はその現象に音の残響との共通点を見出している。木の楽器であるマリンバとピアノ、これらの楽器の豊かな残響の中で、薫りを楽しむように、音を楽しんでもらいたい。
権代敦彦
《たとえ死の陰の谷を歩むとも》(2020)
アンサンブルのための
Atsuhiko Gondai: Si ambulem in medio umbrae mortis --shadow of “si”-- for ensemble
世界初演
岸野末利加
《ウード(沈香)―マリンバ、ピアノとアンサンブルのための二重協奏曲―》(2020)
Malika Kishino: Oud --Double Concerto for marimba, piano and ensemble--
世界初演
佐藤紀雄(指揮) アンサンブル・ノマド
2020年10月9日(金)19:00 東京オペラシティ
https://www.ensemble-nomad.com/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88/%E5%AE%9A%E6%9C%9F%E6%BC%94%E5%A5%8F%E4%BC%9A/%E7%AC%AC70%E5%9B%9E%E5%AE%9A%E6%9C%9F%E6%BC%94%E5%A5%8F%E4%BC%9A/