細川俊夫《遠くから来た友だち》世界初演
photo © Kaz Ishikawa
細川俊夫の新作《遠くから来た友だち》が、12月4日と5日、フィルハーモニー・ルクセンブルクで、ネリー・ダンカーの演出、サロメ・カンマーの語りとユナイテッド・インストゥルメンツ・オブ・ルシリンにより世界初演される。
語り手とアンサンブルのための《遠くから来た友だち》は、細川にとって初めての子供のための作品である。朗読されるテキストは、日本のおとぎ話「浦島太郎」を題材として、多和田葉子がこの作品のために新しく書き下ろしたもの。
休暇中に海の近くのホテルに滞在している主人公は、家族が寝静まった夜、人間の言葉を喋る猫に誘われて海辺に出るが、そこで少年たちにいじめられているロボットとテディベアを助ける。彼らもまた人間の言葉を話し、主人公をそれぞれの自分たちの世界へと誘う。空飛ぶ魚の背に乗せてもらい、ロボットとテディベアと共に彼らの世界へ向かう主人公。そこで経験する未知の世界が主人公にもたらすものは何だろうか?
この作品は、2011年から12年にかけて細川が作曲したメゾ・ソプラノと12人の奏者のためのモノドラマ《大鴉》(原作:エドガー・アラン・ポー)に続き、ユナイテッド・インストゥルメンツ・オブ・ルシリンの委嘱による2作目となる。6歳〜15歳くらいまでの子供たちを対象とした作品だが、委嘱の際、子供のための作品だからと言って、わかりやすく調性を使うなどするのではなく、細川の普段どおりの語法によって作曲することをリクエストされたという。細川は、子供の柔軟な感性で新しい音楽を受け止めてほしいというその姿勢に共感し、自身の語法を存分に活かしながらも、子供たちにとって明確で把握しやすい音楽作りに取り組んだ。
テキストの作者である多和田葉子は、ベルリン在住で、日本語・ドイツ語の両言語で作家活動を行い、ドイツ文学界で最も重要な賞のひとつであるクライスト賞を受賞するなど、国際的に高い評価を受けている作家・詩人である。ドイツで作曲を学び、ドイツを中心としたヨーロッパで活躍してきた細川とも親交が深く、2018年度国際交流基金賞を細川と同時に受賞した際の受賞記念イベントでは、多和田の文学作品の朗読と細川の音楽作品の演奏によるコラボレーションが行われたことは記憶に新しい。
今回の世界初演では、これまでにも子供のための作品やファミリー・オペラを多く手掛けているネリー・ダンカーが演出を担当。女優、歌手、チェリストとして多彩な活躍を展開しているサロメ・カンマーによる語りと、作曲家が長く信頼を寄せるルシリンのメンバーの演奏によって、多和田の「ことば」と細川の「うた」が深く響き合い、子供たちに新たな世界を開くことだろう。
細川俊夫 Toshio Hosokawa
遠くから来た友だち
語り手とアンサンブルのための
Deine Freunde aus der Ferne for narrator and ensemble
原作(ドイツ語):多和田葉子
【世界初演】
演出:ネリー・ダンカー
出演:サロメ・カンマー(語り手)、ユナイテッド・インストゥメンツ・オブ・ルシリン( Sophie Deshayes[フルート]、 Max Mausen[クラリネット]、 André Pons-Valdès[ヴァイオリン]、Danielle Hennicot[ヴィオラ]、Ingrid Schoenlaub[チェロ]、Pascal Meyer[ピアノ]、 Guy Frisch[打楽器])
2021年12月4日[土]17:00 フィルハーモニー・ルクセンブルク
https://www.philharmonie.lu/en/programm/deine-freunde-aus-der-ferne/3626
2021年12月5日[日]11:00/15:00 フィルハーモニー・ルクセンブルク
https://www.philharmonie.lu/en/programm/deine-freunde-aus-der-ferne/3485