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新刊楽譜のご案内(2024年12月)

2024年 12月 31日付

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2024年後半にショット・ミュージックの新刊として発売された演奏用楽譜をご案内します。


混声合唱のための《暗きより》(2022)は、2023年7月にドイツのカールスルーエで、SWRヴォーカル・アンサンブルのコンサート「エレジー Elegie」において、Martina Batič指揮、同アンサンブルのメンバーによって初演された。歌詞は平安中期の宮廷女流詩人であった和泉式部の和歌による。演奏時間は8分。

和泉式部は、10世紀に生きた女流詩人。多くの恋愛をし、優れた愛のうたを書いた、その当時のスキャンダルを振り撒いた美しい宮廷詩人である。この人の歌には、男性への性愛への激しい煩悩に突き動かされた詩があると同時に、仏教的な煩悩から解放されたいという祈りの心が表現されている。

暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき
はるかに照らせ 山の端の月

私は暗い道に入り込んでしまった
月の光よ、私を照らしてください

作品は、シンプルなメロディーのカノンによる堆積によって、ハーモニーが生み出されていく。そしてそのハーモニーは少しずつ変化して、月の光を暗示する。

(細川俊夫)

アルト・フルートと弦楽トリオのための《》(2016)は、ヴェネツィア・ビエンナーレの委嘱により作曲された。作品について作曲家は、音のテクスチュアを無心に織っていくことで立ち現れる呪術的ともいえる音の宇宙であり、同年8月に初演された《トゥイル(綾織り)―ジェルジ・クルタークへのオマージュ(90歳の誕生日に)―》とも通じる音楽である、と述べている。

2016年10月12日にヴェネツィア・ビエンナーレ2016 第60回国際現代音楽祭において、マリオ・カーロリ(アルト・フルート)とmdiアンサンブル(Repertorio Zero レジデンス・アンサンブル)のメンバーによって初演された。演奏時間は13分。


ハープと弦楽四重奏のための《ランドスケープ II》(1992)は、ノートブルガ・プスカスからの依頼により、ジュネス・ミュジカル・グリュエリアンヌの委嘱で作曲され、プスカスに捧げられている。1993年4月30日にスイスのビュルでプスカスとシネ・ノミネ弦楽四重奏団によって初演された。演奏時間は15分。

この作品はそれぞれが多様な音の風景を描いた9つの断片から構築されている。耳を傾けているうちに、だんだんとそれぞれの音響の内なる風景が見えてくる。これらの風景は聴こえるものと聴こえないものの間の中間地帯を、そして、音から生み出される時間的空間の場(トポス)を示唆している。

「ランドスケープ」は私自身の内なる世界から遠く離れた風景である。これはまた我々全てを取り囲んでいる宇宙の音による小さなスケッチでもある。この音楽では、ハープが人を象徴し、弦楽が人を取り囲んでいる宇宙あるいは自然を象徴している。

(細川俊夫)