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小出稚子《Junction》世界初演

2025年 9月 4日付

小出稚子/Noriko Koide

photo © JUMPEITAINAKA

2025年9月5日に愛知県芸術劇場コンサートホールで開催される名古屋フィルハーモニー交響楽団「第537回定期演奏会〈死にゆく者の肖像〉」において、小出稚子の新作《Junction》が、青木涼子の謡、川瀬賢太郎指揮の同交響楽団により世界初演される。

小出がコンポーザー・イン・レジデンスを務める同交響楽団からの委嘱第5作目となる《Junction》は、謡、テープとオーケストラのための作品だが、小出は「ラジオドラマのような音楽を目指した」と述べている。

2022年にBBC Radio 3 から委嘱を受けたオーケストラ作品《揺籠と糸引き雨》は、日本での世界初演後、欧州を中心にたびたび取り上げられ、好評を博している。この作品は朝吹真理子の小説『Timeless』からインスピレーションを受けて作曲された。今作《Junction》はその姉妹作とも言える作品で、朝吹真理子の短編小説『植物人間』と能の古典『定家』を素材として使用している。

『植物人間』では、妻・美蘭との口論の最中に夫・きよがいきなり倒れ、その拍子に後頭部を床に打ちつけ植物状態になる。その身体から多様な植物が芽吹き、生い茂っていく様子が描かれている。一方、『定家』では、式子内親王(主人公)と深い契りを結んだ定家が、二人の死後も執心から「定家葛」となって墓に絡みついており、主人公は旅僧に妄執に苦しんでいる二人を救ってくれるよう頼み、一度は旅僧の読経により妄執から自由になり、喜びの舞を舞うものの、式子内親王の亡霊は再び定家葛の絡みついた墓へと戻っていく。

小出はタイトルについて、以下のように述べている。

2つの物語は今と昔の違いはあれど、主人公の女性がパートナーによって自由を失いがんじがらめにされている境遇や、植物が関係するストーリーに共通点がある。時空をスッと越えて、二人の女性の人生が交差する接合部という意味でJunctionというタイトルを付けた。

小出はまた、「Junction」に「人生の分岐点」としての意味も含ませている。共に植物という共通項を持つ2つの作品だが、小出は哲学者 梅原猛の言葉を引き、『定家』の作者・金春禅竹の植物についての解釈を紹介している。「草木は人間と同じく強い性の悩みを持つ。花には必ずおしべとめしべがあり、性があるということは草木もまた性への執着が激しい。禅竹は草木を、人間と同じ煩悩と仏性を持つものであると見る。」

小出は、植物と性への妄執というこの解釈を介して、素材となっている2つの作品に単なる「植物の存在」という以上の共通項を見い出している。朝吹の小説の中の表現から導き出された様々な奏法によるオーケストラの音色が、聴く者をゾッとさせるような「妄執」をまざまざと想像させることだろう。

小説家本人の協力を得て、朝吹自身が朗読した『植物人間』の録音と青木の謡、そしてオーケストラが絡み合い、音による鮮烈なドラマを繰り広げてくれることだろう。

小出稚子
《Junction》(2025)
謡、テープとオーケストラのための
Junction
for Utai, tape and orchestra
【世界初演】
青木涼子(謡) 川瀬賢太郎(指揮) 名古屋フィルハーモニー交響楽団
第537回定期演奏会〈死にゆく者の肖像〉
2025年9月5日(金)18:45/9月6日(土)16:00
愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
https://www.nagoya-phil.or.jp/2025/010323573729472.html

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