大野セレクションの室内楽―サントリーホール サマーフェスティバル2019
From Left:
Magnus Lindberg © Philip Gatward
Mark-Anthony Turnage © Philip Gatward
Wolfgang Rihm © Universal Edition / Eric Marinitsch
Toshio Hosokawa © Kaz ishikawa
サントリーホールが主催する現代音楽の祭典、「サマーフェスティバル」が8月23日から31日にかけて、今年もサントリーホールで開催され、3つのプロジェクトを軸に全7日におよぶ公演が予定されている。「ザ・プロデューサー・シリーズ」の「大野セレクションの室内楽」では、リンドベルイ、ターネジ、リーム、細川、シャリーノら5人の現代作曲家の作品が紹介される。
フィンランドを代表する現代作曲家の一人マグヌス・リンドベルイの金管アンサンブルのための《オットーニ》(2005)は、音楽の現在をクローズアップするシカゴ交響楽団の人気現代音楽シリーズ「MusicNOW」のために作曲され、2005年同楽団のアンサンブルによって初演された。イタリア語で金管を意味する《オットーニ》は、イタリアのバロック音楽に遡る古い様式パッサカリアに基づく作品である。トランペットが奏でる主要モティーフに対してホルンやトロンボーン、チューバそれぞれが応答し、互いに協奏し合いながら曲は有機的に展開していく。
リンドベルイとほぼ同世代のイギリス人作曲家マーク=アンソニー・ターネジのヴァイオリンとチェロのための《デュエッティ・ダモーレ》(2015)は、現代の愛を主題にした5つのミニアチュールからなる作品である。ターネジらしい抒情的な旋律や激しい嵐のような曲想、またターネジの音楽に影響を与えたブルースの要素も交えながら、ヴァイオリンとチェロの二人の奏者それぞれが男女のカップルを演じる。言い争いや不和、抱擁などナラティヴな音楽的テクストがどのように展開されるのか、その両者の対話が聴きどころになるだろう。
ドイツの作曲家ヴォルフガング・リームのテノール、ピアノ、ハープ、クラリネット、チェロのための《ビルドニス:アナクレオン》(2004)は、フーゴー・ヴォルフ国際アカデミー(シュトゥットガルト)と劇作家シラーの生地で知られるマールバッハのドイツ文学資料館の委嘱によって作曲された。全10曲からなる《ビルドニス:アナクレオン》のテクストは、フーゴー・ヴォルフらロマン派の作曲家たちの歌曲でよく知られるドイツ・ロマン主義の詩人エドゥアルト・メーリケの詩である。本作は、後期ロマン派の様式を織り込んだニュー・シンプリシティの作風を持ち味にするリームによる、現代版のメーリケ歌曲集と言えるだろう。
細川俊夫のリコーダーと弦楽アンサンブルのための《悲しみの河》(2016)は、リコーダー奏者イェレミアス・シュヴァルツァーの委嘱で作曲され、イェレミアスのソロ、アンサンブル・レゾナンス、作曲家自身の指揮で初演された。《レテ(忘却)の水》(2015)、《静かな河》(2016)と合わせて三部作をなす《悲しみの河》には、音楽を構築するのではなく、この世界に流れている「音の河」に耳を傾け、それを自身の美学に沿って音楽化させるという、細川の作曲思想が反映されている。
サントリーホール
サマーフェスティバル2019
ザ・プロデューサー・シリーズ 大野和士がひらく
大野セレクションの室内楽
2019年8月24日[土]16:00 ブルーローズ(小ホール)
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2019/producer_chamber.html
マグヌス・リンドベルイ
オットーニ(2005)
金管アンサンブルのための
Magnus Lindberg: Ottoni for brass ensemble
日本初演
マーク=アンソニー・ターネジ
デュエッティ・ダモーレ(2015)
ヴァイオリンとチェロのための
Mark-Anthony Turnage: Duetti d'Amore for violin and violoncello
ヴォルフガング・リーム
ビルドニス:アナクレオン(2004)
テノール、ピアノ、ハープ、クラリネット、チェロのための
Wolfgang Rihm: Bildnis: Anakreon for tenor, piano, harp, clarinet and violoncello
細川俊夫
悲しみの河(2016)
リコーダーと弦楽アンサンブルのための
日本初演
Toshio Hosokawa: Sorrow River for recorder and string ensemble